XXXTENTACION 「Fuck Love」のコード進行
今回はXXXTENTACIONの「Fuck Love」のコード進行を分析します。使っているコード進行は耳コピです。
むかつく、死にそう
エックスエックスエックステンタシオンのアルバム『17』(2017年)の8曲目に収録。
フィーチャリングで Trippie Reddが入っていますね。
「Fuck Love」のコード進行
[Verse,Chorusすべて]
| Fm7(9)/A# | Gm7/D Cm7(11) |(繰り返し)
コード進行の分析
それではコード進行をみてみましょう。
いきなりどうでもいいですが、カタカナで「エックスエックスエックステンタシオン」て書くとなんかすごいですね。
まず、使われているコードですが、テンションや転回形をむしりとってしまって原形だけで考えると、以下のようになります。
| Fm7 | Gm7 Cm7 |
とってもシンプルな気がしますね。
恒例のキー当てですが、マイナーが2つ長2度で並んでいるときは見当がつきやすいです。シンプルなダイアトニック環境でマイナーが2つ並んでいるのは「IIm7 IIIm7(ナチュラル・マイナーダイアトニックだと IVm7 Vm7)」の並びだけなので。
この曲に当てはめると、
| IVm7 | Vm7 Im7 |
このようになりますね。つまり、キーはCmです。
では、キーがわかって、使われているコードの立ち位置も把握できたところで、そこから何を導き出すことができるでしょうか?
和声的短音階?
すこしコード理論を勉強しはじめると、
「ナチュラル・マイナーダイアトニック環境内には、トニックに進行する V7 がありません。Vm7 ではトライトーンが含まれていないため、どうしても終止感が弱くなっていまいます。ですので、ドミナント・モーションをマイナーキーでも行うために、ナチュラル・マイナー・スケール(自然短音階)の短7度を長7度に変え、ハーモニック・マイナー・スケール(和声的短音階)が生まれました。」
みたいな説明を目にすることが多いと思います。
要は進化論的にナチュラル・マイナーからハーモニック・マイナーが生まれた、と。
ところで、おや? この曲は Vm7 が Im7 に進行しています。つまり、ナチュラル・マイナーのままで曲が作られていますね。
これはどういうことでしょうか。この曲は和声的な退行の症例であるとでもいうのでしょうか?
音楽界は反ダーウィン
「Fuck Love」は退化の兆しか? ーもちろん答えは「ノン」です。
と、いうよりも音階に優劣があるはずもなく、もっというと、今やトニック・マイナーに向かってのドミナント・モーションこそが時代遅れな感すらあります。どういうことでしょうか。
ヒントは拙ブログの過去ポストにもすでにありました。
以前フランク・オーシャンの曲を分析した際に、「ケーデンス感が少ないことが彼の曲にスマートな印象を与えており、最近の曲にはそういうのが多い」と指摘しましたが、今回も同じことがいえると思います。
この曲でもドミナント・モーションを排すことで、曲としてひとつの風景を描いています。
そしてその風景は、これも以前分析したケンドリック・ラマーの曲とも響き合っているように思えます(ついでに言うと、「Fuck Love」の Fm7(9)/A# というのは A#△7(13) と構成音が同じなので、つまり Gm7 以外の使用コードは(キーは違いますが)「Bitch〜」と同じ、ということになります。そういえば普段は寡黙なケンドリックのツイッターでXXXTENTACION『17』がおすすめされていたのも印象的でした。)。
まとめ
今回もコード進行の分析によって、他の音楽との共通点が浮かび上がってきました。
共通点を認めたうえで、異なる点を考えることができると、より深い洞察につながるのではないか、と思います。