ヒップホップのコード進行

ヒップホップのコード進行を分析します。

Frank Ocean 「Thinkin Bout You」のコード進行

今回はフランク・オーシャンの「Thinkin Bout You」のコード進行を分析したいと思います。例によって載せているコードは基本的に耳コピです。

 

ビーチ・ハウス持ってるから君に売ってあげるよーアイダホにあるんだけど。 

フランク・オーシャンの1st『Channel Orange』(2012年)の2曲目に収録。

アルバムのリード・シングルになっています。

 

「Thinkin Bout You」のコード進行

[Verse]

| F△7 | Dm7 | Em7 | Am |

| F△7 | Em7 | Eb△7 | Dm7 |

| F△7 | Dm7 | Em7 | A7 |

| F△7 | Em7 | Eb△7 | Dm7 |

 

[Chorus]

| Dm7 | C | G | Am |

 

コード進行の分析

それでは中身をみていきたいと思います。

まず、この曲のキーは何でしょうか?

一見したところF△7ではじまり、Fメジャーダイアトニックの環境内を動いているような気もしなくもないですが…

でも、それにしては切なすぎると思いません?

 

それに Em7 なんかはFメジャーダイアトニックからはずれていますし。

と、ゆうかこの Em7 がヒントになるかもしれませんね。

そうです。この曲のキーはCメジャーです。

サビのメロディにBの音が入っていることからもキーがFメジャーでないことが確認できると思います。

 

Cメジャーの視点から 

では、Cメジャーキーでみた場合のディグリーネームでコード進行を表してみましょう。

[Verse]

| IV△7 | IIm7 | IIIm7 | VIm |

| IV△7 | IIIm7 | bIII△7 | IIm7 |

| IV△7 | IIm7 | IIIm7 | VI7 |

| IV△7 | IIIm7 | bIII△7 | IIm7 |

 

[Chorus]

| IIm7 | I | V | VIm |

 

まず、一目みてわかることは、Iメジャー少ないということですね。

サビの2小節目に1回だけと、とても地味な登場の仕方です。

 

それからケーデンス感が弱いということ。

CメジャーダイアトニックのドミナントであるGのコードは1回しかでてこないうえにCへと解決しているわけではないですし、2次ケーデンスも見当たりません。

かろうじてヴァースの3・4小節目のルートが4度進行していますが、E7 ではないためケーデンス・ラインを引くこともできません。

 

なお、ノン・ダイアトニック・コードは表中の青い文字で示してみました。

 bIII△7 についてはルートが III→IIへと落ちていく間に挟まれるような形で現れた、同主短調であるCマイナーダイアトニックからのコードです。

VI7 は IIm7 へと向かう7th(バークリー的に書くとV/II)が解決せずに、構成音の似たIV△7 へと進行した形です。

 

だんだんと、この曲の切ない感の出所が見えてきたのではないでしょうか。

 

まとめ

ポイントは、

① Iメジャーコードが(あまり)でてこないこと

② ケーデンス感がないこと

③ ノン・ダイアトニック・コードの使用

 

まず、①「ルートに着地しない」ことによって独特の浮遊感がでています。

Root = 根に戻らないのですから、当然といえば当然ですね。

今回はあえてキーをCメジャーとしましたが、サビの最後のコードが平行短調のルートでもあるAmに落ちていることで、仄悲しい感じというか、モード的にいえばある種リディアン(IV△7)とエオリアン(VIm7)の切なさに支配されているといえるかもしれません。

その点では前回分析した Kendrick Lamar「Bitch, Don't Kill My Vibe」ともある種似通った空気感があるようにも思えます。

そういえばどちらも同じ年にブレイクしたアルバムの2曲目ですね。

 

また、②「ケーデンス感が少ない」こともこの曲の浮遊感を助長しているといえるでしょう。

ケーデンスを入れるとどうしても緊張→解決の連続で全体がガツガツしてしまう。ですがこの曲はケーデンス感を減らすことでスマートな印象になっています。

最近のR&Bなんかはこの感じが多いように思います。

 

最後に、③「ノン・ダイアトニック・コード、特に同主短調であるCマイナーダイアトニック環境から持ってきたコード(bIII△7)の使用によって、さりげなくコード単位でブルーノートのプレゼンテーションをしている」点も見逃せません。

いわゆる「ブルース」では、どんなコードに対してもブルース・スケールでメロディを奏でることで、ブルーノートの提示を行なっています。

一方、アーバンなフィーリングのあるR&Bなどでは、そうではなく、コード単位でマイナー環境とメジャー環境を統合することにより、ブルーノートのプレゼンテーションを行うと同時に、おしゃれな雰囲気を醸し出すことが多いです。

この曲でも bIII△7 の部分では、少し他と雰囲気が変わっているのがわかるのではないでしょうか。

 

今回はこの曲独特の浮遊感、切ない感じ、そして洒落っ気の出所が以上3点にあることがわかりました。