唾奇 × Sweet William 「Good Enough feat. kiki vivi lily」のコード進行
唾奇 × Sweet William 「Good Enough feat. kiki vivi lily」のコード進行を分析します。コードは耳コピです。
全てがうまくいくはずだから また明日から 金は借りたから
唾奇 × Sweet William 『Jasmine』(2017年)の7曲目。先行シングルにもなっていました。
「Good Enough feat. kiki vivi lily」のコード進行
[Intro]
| F△7 | Em7 | F△7 | Em7 |
| Dm7(9,11) | Em7 Am7(9) | F△7 Em7 | A△7(9) |
[Verse]
| Dm7(9,11) | Em7(b13) Am7(9) | Dm7(9,11) | Em7(b13) Am7(9) |
| Dm7(9,11) | Em7(b13) Am7(9) | Dm7(9,11) | Em7(b13) A△7(9) |
[Chorus]
| Dm7(9,11) | Em7(b13) Am7(9) | Dm7(9,11) | Em7(b13) Am7(9) |
| Dm7(9,11) | Em7(b13) Am7(9) | F△7 Em7 | A△7(9) |
コード進行の分析
それでは コード進行を見ていきましょう。
ちなみに上記のコード進行はシンプライズしています。実際の曲では音色によって微妙に変化があったりします。
キーはCメジャーです。
白鍵だけで演奏できるので弾きやすい。
では、テンションも取っ払ってディグリーで見てみます。
1曲通して大きくコード進行に変化はないので、コーラスの部分を抜粋すると、
[Chorus]
| IIm7 | IIIm7 VIm7 | ×3
| IV△7 IIIm7 | VI△7 |
こんな感じですね。
マイナーからメジャーへ
さて、ここで特徴的かつ聴いてておっしゃれー。てなるポイントはどこでしょうか。
そうですね。いちばん最後のコードですね。
ここまで「 IIm7 → IIIm7 → VIm7 」とダイアトニック環境内で落ちてきていたのが、ここで急に「 VI△7 」で終止しています。
メジャーセブンス。
たとえば「 IIm7 → IIIm7 →VI7 」とかであれば IIm7 へのセカンダリー・ドミナントかな?て感じですが、ここではメジャーセブンス。
メジャーセブンス。
どこからきたのかメジャーセブンス。
これは、Cメジャーの平行短調であるAマイナーをルートとした際の同主調長調です。
つまり、「 Cメジャー / Aマイナー : Aメジャー / F#マイナー : F#メジャー / D#マイナー…」という大いなる螺旋の中から近親関係にあるAメジャーのコードがここで入ってきた感じですね。
逆に分かりづらいでしょうか。
このようなVI△7の使われ方、自分はいわゆる置換ケーデンスと似た印象を受けました(この呼び方一般的じゃないかもしれませんが、自分はこれで習ったのでこのまま使います)。
置換ケーデンス(DC)は 「 IVm7 bVII7 I△7 」みたいな動きで、R&Bとかでよくある洒落っ気のあるコード進行のひとつですが(具体的な使用例がすぐには思いつきませんでした)、この曲での A△7 使われ方はまさにこれと同じで、そのエッセンスがうまく活きているように感じました。
AマイナーからAメジャーへ。
「唾奇 × Sweet William」の知名度もこの曲で一気にはねあがりました。
この曲でマイナーからメジャーへ、という彼らの強い意志が、ここではコード進行という形で暗示されていたのかもしれません。
嘘です。
テンションの魔力
また、他にも、最初のコード進行をざっと見たときに、テンションが多いのに気づいた方も多いのではないでしょうか。
Dm7(9,11) とか Em7(b13) とか。
トップノートのメロディをコードネームに入れてるのでこうなっているんだと思いますが、(多分)弾きでこういったコードをバシバシ入れているところが、このトラックのどこかジャジーでお洒落な感じを感じる一因ではないかと思います。
まとめ
今回の分析を通して、この曲のふわっと暖かい雰囲気は、コード進行的には
VIm7 の代わりに VI△7 を使うことによるアーバン感
そして
Dm7(9,11) 、Am7(9) といったテンションコードの使用
に依るのでは、という結論になりました。
XXXTENTACION 「Fuck Love」のコード進行
今回はXXXTENTACIONの「Fuck Love」のコード進行を分析します。使っているコード進行は耳コピです。
むかつく、死にそう
エックスエックスエックステンタシオンのアルバム『17』(2017年)の8曲目に収録。
フィーチャリングで Trippie Reddが入っていますね。
「Fuck Love」のコード進行
[Verse,Chorusすべて]
| Fm7(9)/A# | Gm7/D Cm7(11) |(繰り返し)
コード進行の分析
それではコード進行をみてみましょう。
いきなりどうでもいいですが、カタカナで「エックスエックスエックステンタシオン」て書くとなんかすごいですね。
まず、使われているコードですが、テンションや転回形をむしりとってしまって原形だけで考えると、以下のようになります。
| Fm7 | Gm7 Cm7 |
とってもシンプルな気がしますね。
恒例のキー当てですが、マイナーが2つ長2度で並んでいるときは見当がつきやすいです。シンプルなダイアトニック環境でマイナーが2つ並んでいるのは「IIm7 IIIm7(ナチュラル・マイナーダイアトニックだと IVm7 Vm7)」の並びだけなので。
この曲に当てはめると、
| IVm7 | Vm7 Im7 |
このようになりますね。つまり、キーはCmです。
では、キーがわかって、使われているコードの立ち位置も把握できたところで、そこから何を導き出すことができるでしょうか?
和声的短音階?
すこしコード理論を勉強しはじめると、
「ナチュラル・マイナーダイアトニック環境内には、トニックに進行する V7 がありません。Vm7 ではトライトーンが含まれていないため、どうしても終止感が弱くなっていまいます。ですので、ドミナント・モーションをマイナーキーでも行うために、ナチュラル・マイナー・スケール(自然短音階)の短7度を長7度に変え、ハーモニック・マイナー・スケール(和声的短音階)が生まれました。」
みたいな説明を目にすることが多いと思います。
要は進化論的にナチュラル・マイナーからハーモニック・マイナーが生まれた、と。
ところで、おや? この曲は Vm7 が Im7 に進行しています。つまり、ナチュラル・マイナーのままで曲が作られていますね。
これはどういうことでしょうか。この曲は和声的な退行の症例であるとでもいうのでしょうか?
音楽界は反ダーウィン
「Fuck Love」は退化の兆しか? ーもちろん答えは「ノン」です。
と、いうよりも音階に優劣があるはずもなく、もっというと、今やトニック・マイナーに向かってのドミナント・モーションこそが時代遅れな感すらあります。どういうことでしょうか。
ヒントは拙ブログの過去ポストにもすでにありました。
以前フランク・オーシャンの曲を分析した際に、「ケーデンス感が少ないことが彼の曲にスマートな印象を与えており、最近の曲にはそういうのが多い」と指摘しましたが、今回も同じことがいえると思います。
この曲でもドミナント・モーションを排すことで、曲としてひとつの風景を描いています。
そしてその風景は、これも以前分析したケンドリック・ラマーの曲とも響き合っているように思えます(ついでに言うと、「Fuck Love」の Fm7(9)/A# というのは A#△7(13) と構成音が同じなので、つまり Gm7 以外の使用コードは(キーは違いますが)「Bitch〜」と同じ、ということになります。そういえば普段は寡黙なケンドリックのツイッターでXXXTENTACION『17』がおすすめされていたのも印象的でした。)。
まとめ
今回もコード進行の分析によって、他の音楽との共通点が浮かび上がってきました。
共通点を認めたうえで、異なる点を考えることができると、より深い洞察につながるのではないか、と思います。
C.O.S.A. × KID FRESINO 「LOVE」のコード進行
今回はC.O.S.A. × KID FRESINO 「LOVE」のコード進行を分析します。なお、載せているコードは耳コピです。
What love is またひとつ浮かんだ ー What love is またひとつ消えた
C.O.S.A. × KID FRESINO『Somewhere』(2017年)の2曲目です。
プロデュースはFla$hBackSのjjj。
「LOVE」のコード進行
[Intro]
| B△7 A#7 | D#m7 F#7 |
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | B/C# |
[Verse1]
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
| B△7 A#7 | D#m7 B/C# | B△7 A#m7 | Gm7 F#7/A# |
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
[Chorus1]
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
| B△7 A#7 | D#m7 B/C# | B△7 A#m7 | Gm7 B/C# |
[Verse2]
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
| B△7 A#7 | D#m7 B/C# | B△7 A#m7 | Gm7 B/C# |
[Chorus2]
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
[Verse3]
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
| B△7 A#7 | D#m7 B/C# | B△7 A#m7 | Gm7 B/C# |
[Chorus3]
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
コード進行の分析
さっそく中身を見ていきましょう。
まず今回はコード進行の表が長いうえに#が多くて見づらいですね。すいません。
「Bitch, Don't Kill My Vibe」のときなんか2行だったのに。
なんでこんなに#が多くなってしまったのでしょうか。
そうです。キーがF#だからですね。
長々とコード進行を書きましたが、基本的なループは
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# |
と
| B△7 A#7 | D#m7 B/C# | B△7 A#m7 | Gm7 F#7/A# |
なのがぱっと見でもわかるのではないでしょうか。これの語尾がときどきB/C#になったり、という感じですね。
オンコードが2つでてきますが、B/C#はC#7のことで、F#7/A#はF#7の転回形です。
ディグリー表記だと
ループ①
| IV△7 IIIm7 | IIm7 V7 | IV△7 IIm7 | IIm7 I7 |
ループ②
| IV△7 III7 | VIm7 V7 | IV△7 IIIm7 | IIm7 I7 |
になりますね。
まず、ループ①のほうは、ファ・ミ・レと降りてきて次への繋がりを予感させるドミナントで終わる、というのが基本的な構造になっています。
この辺は「東京23時」のコード進行と似た甘さ・切なさを感じる所以と言えましょうか。
ここでファ・ミ・レ以外に登場するドミナントも、ダイアトニック環境内のV7か次のコード(IV△7)へのドミナントであるI7と、割とシンプルな構造です。
次にループ②です。
ループ①と違うのは前半の4つのコード進行のみで、ループ①が「ファ・ミ・レ」と下がっていくのに対して、2つめと3つめのコードが、それぞれ平行短調であるD#m7(VIm7)とそこへのドミナント(III7)になっています。
実はこの進行もある意味テンプレというか、よくあるコード進行です。
R&Bで王道といえるコード進行なのですが、数多あるR&B王道進行の中でも、特にJ-POPで人気の高いコード進行になります。
J-POPでの使用例は、パッと思いつくだけでも椎名林檎の丸サ
とか、
他にも「今夜はブギーバック」「決戦は金曜日」「COSMIC BOX」など、枚挙にいとまがありません。
ちょっと洒落な雰囲気の曲が多いのが目立った特徴でしょうか。
そして今回の「LOVE」もそんな系譜に連なる1曲といえるのかもしれません。
なぜ長い
ところで、どうして今回のコード進行の表はこんなに長いのでしょうか。
上で見たとおり特段コード進行のパターンが多いというわけではありません。
え、じゃあ何なの、という皆さま。
なんとこの曲、驚くべきことにヴァースとサビのコード進行が毎回違っているのです。
普通は曲の1番と2番のコード進行って歌詞は違えどだいたい同じで、ましてやヒップホップなんてその傾向が強いのですが、今回ばかりはそうは問屋が卸さない。
その結果、通常は繰り返し表記で済んでしまうところを、長大な表になったというわけです。
でも、パターンが多いわけではないのに、なぜ毎回コード進行が異なることになるのか。
解説します。
これは、もともとのトラックは
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# | × 3回
| B△7 A#7 | D#m7 B/C# | B△7 A#m7 | Gm7 F#7/A# | × 1回
でループしていたのですが、そのイントロが
| B△7 A#m7 | G#m7 B/C# | B△7 A#m7 | G#m7 F#7/A# | × 2回
の段階でC.O.S.Aのヴァースに入ったため、結果として2ループずつ押し出され、このようにトリッキーな進行になったものと思われます。
つまり意図したものではなく、あくまで結果としてこうなったのではないでしょうか。
ですが、その上でヴァースとサビの切り替えとなる箇所、句読点となる部分では微妙にトラックを調整しているので、基本的なループの語尾がときどき変化しているというわけです。
ここから、ただループさせてトラック一丁あがり、というわけではなく、丁寧に細部を仕上げているということも見てとれます。
まとめ
今回はコード進行の分析によって、曲の持つ甘切なさとアーバンなフィーリングの源泉を発見するのみならず、トラックの周期とラップの周期にズレがあることを認識することができました。
こうして、ただ陶然と聴いているだけではなかなか気づかない構造が見やすくなるというのも、コード進行を分析したことによる副産物といえるのではないでしょうか。
サンプリング元
Todd Rundgren 「Marlene」
サンプリングの元ネタです。
トッド・ラングレンの名盤から。割と大ネタ使いといえるでしょうか。
ちなみに原曲はキーがFです。
S.L.A.C.K 「東京23時 Feat. SEEDA / KOJOE」のコード進行
今回はS.L.A.C.K (5lack) の「東京23時 Feat. SEEDA / KOJOE」のコード進行を分析したいと思います。載せているコードは耳コピです。
なあマイメン、今日のこの街が いつもに増して、鮮やかに見えるなら。
S.L.A.C.Kの『我時想う愛』(2011年)の3曲目に収録されています。
フィーチャリングで SEEDA と KOJOE も参加。
「東京23時」のコード進行
[Verse,Chorusすべて]
| A△7 | E△7/G# | F#m | E |(繰り返し)
コード進行の分析
それでは中身を見ていきます。
このブログでは初の日本語ラップの分析ですが、USのラッパーとの差異はあるのでしょうか?
まず、この曲のキーですが、これはわかりやすいですね。Eメジャーです。
2小節目をオンコード、E△7の転回形で表記しましたが、構成音はG#m(b13)と同じですので、G#mと考えてしまって問題ないです。
つまりディグリーで表記すると、
| IV△7 | IIIm | IIm | I |
ということになります。
わかりやすく言えば、Eメジャーダイアトニックの環境内をIV→III→II→I と、ファミレドと降りていっているだけということですね。
ファミレドと降りるだけ。
こうしてコード理論的にいってしまうとなんてことのないように思えます。
実際こうゆうコード進行だとそれで説明終わり、みたいにされてしまうことも多いです。
でも、それでは、この零れ落ちるリリシズムをどう説明したらよいのでしょうか?
この魔力はすべてコード進行以外の力、例えば音色やリズムなどの力によるものなのでしょうか?
ファミレドのちから
実はこの IV→III→II→I の進行、独特の切なさと暖かさみたいなものがあり、昔からR&Bなどによく見られる進行でした。
例えば Minnie Riperton「Lovin' you」や、
Alicia Keys「If I Ain't Got You」(イントロ、サビの部分)
など。
つまりこのファミレド進行は、それ自体でひとつのテンプレとして機能し得るコード進行であるといえるでしょう。
実際、どれもいい感じの空気感をまとっているように感じませんか?
もちろん同じコード進行であるといっても、ヴォイシングやアレンジ、メロディやリズムなどが異なるのでそれぞれ独自の世界観を持っていますが、でも似ている部分もありますよね。
まとめ
今回は「東京23時」のコード進行を分析することにより、この曲は唯一人独立しているのではなく、そこには他の音楽とも共通したロジックが存在していることがわかりました。
こうしてコード進行という視点から音楽同士を紐づけ、掘り返していくのも楽しいことですよね。
もちろん、コード進行がわかったからといって、その音楽の1%でも理解したことにはならないかもしれませんが。
Frank Ocean 「Thinkin Bout You」のコード進行
今回はフランク・オーシャンの「Thinkin Bout You」のコード進行を分析したいと思います。例によって載せているコードは基本的に耳コピです。
ビーチ・ハウス持ってるから君に売ってあげるよーアイダホにあるんだけど。
フランク・オーシャンの1st『Channel Orange』(2012年)の2曲目に収録。
アルバムのリード・シングルになっています。
「Thinkin Bout You」のコード進行
[Verse]
| F△7 | Dm7 | Em7 | Am |
| F△7 | Em7 | Eb△7 | Dm7 |
| F△7 | Dm7 | Em7 | A7 |
| F△7 | Em7 | Eb△7 | Dm7 |
[Chorus]
| Dm7 | C | G | Am |
コード進行の分析
それでは中身をみていきたいと思います。
まず、この曲のキーは何でしょうか?
一見したところF△7ではじまり、Fメジャーダイアトニックの環境内を動いているような気もしなくもないですが…
でも、それにしては切なすぎると思いません?
それに Em7 なんかはFメジャーダイアトニックからはずれていますし。
と、ゆうかこの Em7 がヒントになるかもしれませんね。
そうです。この曲のキーはCメジャーです。
サビのメロディにBの音が入っていることからもキーがFメジャーでないことが確認できると思います。
Cメジャーの視点から
では、Cメジャーキーでみた場合のディグリーネームでコード進行を表してみましょう。
[Verse]
| IV△7 | IIm7 | IIIm7 | VIm |
| IV△7 | IIIm7 | bIII△7 | IIm7 |
| IV△7 | IIm7 | IIIm7 | VI7 |
| IV△7 | IIIm7 | bIII△7 | IIm7 |
[Chorus]
| IIm7 | I | V | VIm |
まず、一目みてわかることは、Iメジャー少ないということですね。
サビの2小節目に1回だけと、とても地味な登場の仕方です。
それからケーデンス感が弱いということ。
CメジャーダイアトニックのドミナントであるGのコードは1回しかでてこないうえにCへと解決しているわけではないですし、2次ケーデンスも見当たりません。
かろうじてヴァースの3・4小節目のルートが4度進行していますが、E7 ではないためケーデンス・ラインを引くこともできません。
なお、ノン・ダイアトニック・コードは表中の青い文字で示してみました。
bIII△7 についてはルートが III→IIへと落ちていく間に挟まれるような形で現れた、同主短調であるCマイナーダイアトニックからのコードです。
VI7 は IIm7 へと向かう7th(バークリー的に書くとV/II)が解決せずに、構成音の似たIV△7 へと進行した形です。
だんだんと、この曲の切ない感の出所が見えてきたのではないでしょうか。
まとめ
ポイントは、
① Iメジャーコードが(あまり)でてこないこと
② ケーデンス感がないこと
③ ノン・ダイアトニック・コードの使用
まず、①「ルートに着地しない」ことによって独特の浮遊感がでています。
Root = 根に戻らないのですから、当然といえば当然ですね。
今回はあえてキーをCメジャーとしましたが、サビの最後のコードが平行短調のルートでもあるAmに落ちていることで、仄悲しい感じというか、モード的にいえばある種リディアン(IV△7)とエオリアン(VIm7)の切なさに支配されているといえるかもしれません。
その点では前回分析した Kendrick Lamar「Bitch, Don't Kill My Vibe」ともある種似通った空気感があるようにも思えます。
そういえばどちらも同じ年にブレイクしたアルバムの2曲目ですね。
また、②「ケーデンス感が少ない」こともこの曲の浮遊感を助長しているといえるでしょう。
ケーデンスを入れるとどうしても緊張→解決の連続で全体がガツガツしてしまう。ですがこの曲はケーデンス感を減らすことでスマートな印象になっています。
最近のR&Bなんかはこの感じが多いように思います。
最後に、③「ノン・ダイアトニック・コード、特に同主短調であるCマイナーダイアトニック環境から持ってきたコード(bIII△7)の使用によって、さりげなくコード単位でブルーノートのプレゼンテーションをしている」点も見逃せません。
いわゆる「ブルース」では、どんなコードに対してもブルース・スケールでメロディを奏でることで、ブルーノートの提示を行なっています。
一方、アーバンなフィーリングのあるR&Bなどでは、そうではなく、コード単位でマイナー環境とメジャー環境を統合することにより、ブルーノートのプレゼンテーションを行うと同時に、おしゃれな雰囲気を醸し出すことが多いです。
この曲でも bIII△7 の部分では、少し他と雰囲気が変わっているのがわかるのではないでしょうか。
今回はこの曲独特の浮遊感、切ない感じ、そして洒落っ気の出所が以上3点にあることがわかりました。
Kendrick Lamar 「Bitch, Don't Kill My Vibe」 のコード進行
ケンドリック・ラマーの「Bitch, Don't Kill My Vibe」のコード進行を分析したいと思います。載せてるコードは基本的に耳コピです。
心の中を覗いてみなよーそんなもの存在しないってことがわかるから
ケンドリックの2nd『good kid, m.A.A.d city』(2012年)の2曲目に収録。
シングルカットもされています。
「Bitch, Don't Kill My Vibe」のコード進行
[Verse, Hook, Brdige すべて]
| Fm7 | Db△7 | (繰り返し)
※2小節目のDb△7は食って入ります
コード進行の分析
それでは中身をみていきましょう。
キーはFmです。
コードをディグリーネームで表すと | Im7 | bVI△7 | の繰り返し。
機能的にはトニックマイナー(Tm)→サブドミナント・マイナー(SDm)のループですね。ドミナント(D)がでてこないことがわかります。
もう少しミクロに寄ります。
2つのコードの構成音をみてみると、Fm(F Ab C Eb)と Db△7(Db F Ab C)。
つまり、1音を除いてすべての構成音を共有していることがわかります。
有り体に言えばほぼ同じコードが2つ並んでいる。
確かに、コードの変化に伴う情景の変化はそれほど大きくないように聞こえます。
フックのメロディーに目を向けると、すべてFマイナーペンタトニックで構成されています。
また、Db△7の部分では、メロディーがDb△7の9thや13thを鳴らしていることから、コードに沿ってメロディーを作ったわけではないことがわかります。
でも、
これって、コードが進行していますか?
モードで考える
コードが進行するためにはトライトーンの解決が必要です。
ドミナントがなければそもそも進行することすらできません。
そして、それゆえにモードは原理的にクールなのです。
この曲には不協和音がありません。
つまり、コード進行がありません。
では、モードで考えてみましょう。
コード進行することができないこの曲を。
モーダル目線でみると、すぐにFエオリアン一発であることがわかると思います。
FエオリアンのルートコードはFmです。
また、Fエオリアンの特性音はDb。
そのDbをルートに持つコード、プライマリーコードであるDb△7をFmと併せてプレゼンテーションしている。
つまり、この曲は典型的なFエオリアンの曲なのです。
曲を通して流れる、重さと湿度をまとった空気感。
その正体はエオリアン特有の「モード」にあったのです。
まとめ
コード進行を分析した結果、この曲はコード進行を基にした、ケーデンシャルな曲ではなく、モーダルな曲であることがわかりました。
サンプリング元
Boom Clap Bachelors 「Tiden Flyver」
サンプリングの元ネタ。デンマークのバンドみたいです。
「Bitch~」よりキーが半音低い。